ブログ・症例紹介
Blog 歯の移植症例⑴
長年むし歯を放置していたことが原因で、歯ぐきの中の方までむし歯が進行してしまった患者様です。
歯茎の中まで虫歯が進行してしまうと、その後の歯の予後は非常に悪くなるため、治療は抜歯も含めて検討が必要になります。
今回は、隣に「利用されていない」健康な親知らずが存在していたため、親知らずを有効活用した「歯の移植」を適応しました。
治療前
30歳代女性
依頼内容:1年以上前に左上7番目の奥歯に痛みを感じたことがあるが、忙しくてその後放置していた。隣の親知らずも以前他の歯医者で将来的に抜歯が必要と言われたが放置している。
レントゲンでは7番目の奥歯に大きなむし歯が存在しており、むし歯は歯ぐきの内部まで広がっていることがわかります。
歯ぐきの内部までむし歯が広がった状態(歯肉縁下むし歯)だと、その後健全に歯を再構築することが難しくなるため、治療の選択肢は抜歯も含めて考えないといけません。
CTでシュミレーションを行なったところ,7番目の奥歯の骨に歯周病は存在してるものの移植適応外になるほど重度ではありませんでした。さらに親知らずは根の形も良く、移植に問題なく利用できる状態であると診断できました.
歯の移植にはメリット・デメリットともに存在しますが、今回はメリットが大きく上回ると判断できました。
特に患者様の年齢を考慮すると「次の治療を先延ばしにできる」ことは大きなメリットと言えます。移植した歯が術後何年健康に機能するかについては未だに不明確な部分も存在します.しかしながら,移植した歯が数年後に抜歯適応になってしまった際に,次のステップとしてインプラント等の治療法を選択することができます.
今回は、隣に健康な親知らず(8番目の奥歯)が存在し、利用されていない状態であったため、7番目の奥歯を抜歯する代わりに、この親知らずを移植して有効活用する治療が適応可能と判断しました。
どのように対応したかみていきましょう.
治療中
まずは移植手術を行います。
保存不可能と判断した7番目の奥歯を、周囲の組織を損傷しない様に丁寧に抜歯を行いました.
続いて、親知らずをスムーズに埋入できるように、術前のシュミレーションを参考に慎重に穴を形成します。抜歯した直後であれば穴が残っていますから、穴を拡大する作業を行います。
親知らずを丁寧に抜歯して、7番目の歯があった穴に埋入します。
埋入したドナー歯は不安定なため、縫合とワイヤーによって固定を行いました。
十分に粘膜を伸ばして,確実にかつ丁寧に縫合し,手術を終了しました.
手術後は、移植した歯と顎骨が接合するのに約1ヶ月待機しました。
その間に、移植した歯が安定していることを確認して術後約2週間後ごろに隣の歯との固定を外し、移植した歯に根管治療(歯の神経の治療)を行いました。
治療後
歯の移植を行なった後,仮歯を作成し、その後土台の型取りをして、かぶせ(セラミッククラウン)を製作して装着し治療を終了しました。
※患者様にご説明し,症例提示の同意をいただいた上で掲載しております.
リスク
手術後,痛みや違和感・出血・腫れなどが出る可能性があります.
歯の移植治療にはメリット・デメリットが存在します.担当医からの注意事項説明を充分に理解して頂くようお願いします.
セラミッククラウンが個人差により稀に欠けたり壊れる可能性があります.咬み合わせ・歯ぎしりの強い方は、破損防止のためにマウスピースをおすすめすることがあります.
治療期間
約3ヶ月
治療費用
約¥170,000(税別)
費用内訳
●自家歯牙移植術(移植から根管治療まで※クラウンは別料金):¥70,000 /1本(税別)
●セラミッククラウン:¥100,000 /1本(税別)
監修者情報
玉岡丈二 ジョージ歯科口腔外科 院長
歯科医師。医学博士。日本口腔インプラント学会専門医。日本口腔外科学会認定医。
「医学と歯学を繋ぐ」と「インプラント」を専門とし、兵庫医科大学にて医学博士号を取得。兵庫医科大学歯科口腔外科学講座助教を経て、専門医として口腔領域の多岐にわたる手術を担当。2023年ジョージ歯科口腔外科を開院し、「まっすぐに」向き合う医療を志す。
著書・論文に『「人生100年時代」 のインプラント治療の考えかた』『口腔インプラント医が知っておくべき骨吸収抑制薬の知識(日口腔インプラント誌2019)』等。