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Blog 歯を移植する。
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移植治療とは「臓器の機能が低下し移植でしか治らない受給側(レシピエント)に提供側の臓器(ドナー)を移植し健康を回復しようとする治療」とされています。医療ドラマなどでもしばしば登場するキーワードですから、一般的には医科での心臓移植や腎臓移植などが連想されると思います。
歯科口腔領域においても「歯の移植」という治療の選択肢が存在することをご存知でしょうか?
今回は「歯の移植」について、その概要やメリット・デメリットを解説します。
歯の移植について
歯の移植とは、「自家歯牙移植治療」と言い、「同一個人においてある部位から別の部位へ外科的に歯を移動する処置」と定義されています。
つまり、「むし歯、歯周病、歯の破折などで抜歯治療が適応になってしまった部分に、”健康な親知らず”や”生え方の異常などで使用されていない歯”を移植し有効活用できる方法」です。
残念ながら抜歯適応となり歯が欠損してしまった場合、咀嚼機能(咬む能力)を回復するためには欠損部を回復する補綴処置が必要不可欠です。歯を補う方法として、ブリッジ・入れ歯・インプラントがありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
例えばブリッジは、両隣の歯を差し歯にしてブリッジ(橋渡し)にする治療ですから、両隣の歯を削らないといけないこと等がデメリットとして挙げられます。入れ歯は、取り外しを要する義歯ですから、取り外しの煩わしさや異物感や見た目等がデメリットとされます。
インプラントは前者と比較すると非常にメリットの多い治療ですが、技術的難易度が高く、基本的にやり直しが難しい治療であることに加え、インプラント周囲の歯周病リスク等がデメリットとして挙げられるでしょう。
歯の移植のメリット
自分の歯で噛める
自分の歯は歯根膜(歯と骨をつなぐ組織)によって様々な感覚を有しており、咬んだ際に硬さを認識しクッション材のような防御機能の役目も果たします。また、歯根膜が存在することで歯の周囲の骨再生も期待することができます。この歯根膜が存在することが他の治療法と比較してとても大きなメリットとなります。
使用していない歯を利用できる
”健康な親知らず”や”生え方の異常などで使用されていない歯”を移植し有効活用します。親知らずは、根本的に歯ブラシを当てるのが難しく、歯周病やむし歯の原因になり易いため予防的観点から抜歯が推奨されます。また、歯列から逸脱していたり、埋まっていて咬み合わせに機能していない歯も移植ドナーとして利用することが可能です。
次の治療を先延ばしにできる
筆者は個人的に最も大きなメリットと考えています。
移植した歯が術後何年健康に機能するかについては、移植歯および受容側の条件や個人の生体反応の差、術者の技術や経験に依存する部分が多く、未だに不明確な部分も存在します。しかしながら、移植した歯が数年後に抜歯適応になってしまった際に、その段階でインプラントやブリッジを選択することができます。このように「次の治療を先延ばしにできる」ことはとても大きなメリットと言えます。
インプラントやブリッジも術後10年以上も経過すれば、何らかの問題が起こるリスクが存在します。特に20〜30歳代の若年で歯を抜歯せざるを得ないことになった場合、歯の移植治療を有効に活用すればインプラント治療の開始時期を遅らせることができますから、その後のインプラント周囲の歯周病リスク等を考慮すると非常に有利と言えるでしょう。
両隣の歯を削る必要がなく、異物感のない自分の歯を利用できる
自分の歯を移植する治療ですから、ブリッジのように両隣の歯を削る必要もなく、入れ歯のように取り外しも必要ありません。また、インプラントのように撤去すること自体が困難な治療ではありません。前述のように術後数年後に移植歯が保存困難になった時に、次の選択肢として他の治療法を選択することができます。
歯の移植のデメリット
歯の移植はメリットばかりに注目されがちですが、一方でデメリットも存在します。十分に理解して治療を選択すべきでしょう。
治療の難易度が高い
歯の移植は外科手術を伴うため難易度が高い治療で、歯科医師の口腔外科の技術・経験が必要とされます。治療の特性からインプラント治療と類似する点が多いですが、インプラント治療が一般の歯科医師に普及していることに比較して、歯の移植治療を行うことができる歯科医師は少ないのが現状です。理由は口腔外科治療とインプラント治療への経験・知識の差が考えられます。
つまり、歯の移植は口腔外科治療の経験が豊富な歯科医師に治療を依頼する方が無難と言えます。加えて、インプラント治療の手術経験を兼ね備えている歯科医師が理想と言えるでしょう。
高齢者では成功率が下がる
歯の移植は40歳以上になると移植後の歯の喪失率が高まると言われています。もちろん個人差がありますが、歯の移植は「生体の反応を利用した治療」ですから、年齢が上がるにつれて治りが悪くなったり、歯周病のリスクが上がることは想像に難しくないのではないでしょうか。明確に「○歳以上は不可」といった科学的根拠はありませんから、歯科医師とメリット・デメリットを総合的に勘案して治療を選択することが重要です。
条件の良いドナー(歯)がないと適応できない
健康な親知らずや生え方の異常などで使用されていない歯が存在しない場合は、ドナーが存在しないので当然ながら移植治療の適応になりません。
また、ドナーとなりうる歯が存在していても、サイズが合っていなかったり、歯の根っこの形が複雑であったり、歯周病に罹患していて歯根膜が失われている場合はドナーとして利用することができません。
まとめ
歯の移植:自家歯牙移植治療は、「むし歯、歯周病、歯の破折などで抜歯治療が適応になってしまった部分に、”健康な親知らず”や”生え方の異常などで使用されていない歯”を移植し有効活用できる方法」です。
メリット
- 自分の歯で噛めること
- 使用していない歯を利用できる
- 次の治療を先延ばしにできる
- 両隣の歯を削る必要がなく、異物感のない自分の歯を利用できる
デメリット
- 治療の難易度が高い
- 高齢者では成功率が下がる
- 条件の良いドナー(歯)がないと適応できない
歯の移植は「生体の反応を利用した治療」ですから、口腔外科治療の経験が豊富な歯科医師に治療を依頼する方が無難と言えます。加えて、インプラント治療の手術経験を兼ね備えている歯科医師が理想と言えるでしょう。
ジョージ歯科口腔外科は、口腔外科治療に積極的に取り組んでいる「日本口腔外科学会認定医」かつ、インプラント治療のエキスパートである「日本口腔インプラント学会専門医」であることに加え、全身的な医学的背景に精通した「医学博士」が、責任を持って歯の移植治療を提供致します。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
監修者情報
玉岡丈二 ジョージ歯科口腔外科 院長
歯科医師。医学博士。日本口腔インプラント学会専門医。日本口腔外科学会認定医。
「医学と歯学を繋ぐ」と「インプラント」を専門とし、兵庫医科大学にて医学博士号を取得。兵庫医科大学歯科口腔外科学講座助教を経て、専門医として口腔領域の多岐にわたる手術を担当。2023年ジョージ歯科口腔外科を開院し、「まっすぐに」向き合う医療を志す。
著書・論文に『「人生100年時代」 のインプラント治療の考えかた』『口腔インプラント医が知っておくべき骨吸収抑制薬の知識(日口腔インプラント誌2019)』等。