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こんにちは。ジョージ歯科口腔外科 院長の玉岡丈二です。私はこれまで歯科医師・医学博士として、「医学と歯学の繋がり」をテーマに研究・発信をしてきました。

骨粗鬆症の薬剤治療には、第一選択薬として骨吸収抑制薬であるビスホスホネートやデノスマブと言うお薬が推奨されています。

最近、その副作用の一つとして「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(antiresorptive agents-related osteonecrosis of the
jaw: ARONJ)」が問題となっています。

今回は、骨粗鬆症における歯科治療の重要性について、顎骨壊死の予防を含めて解説致します。


歯周炎には「辺縁性歯周炎(いわゆる歯槽膿漏)」と「根尖性歯周炎」が存在します。

辺縁性歯周炎は、歯肉炎が進行した「歯周病」で、歯周ポケットからの炎症が持続・進行すると骨吸収を生じます。

2種類の歯周炎:歯周病と根尖病変

歯周炎には「辺縁性歯周炎(いわゆる歯槽膿漏)」と「根尖性歯周炎」が存在

わが国においては、軽症の歯肉炎も含めると成人の80%以上が歯周病に罹患しており、特に歯を有する高齢者ではほとんどの人が罹患していると言われています。

一方、根尖性歯周炎はむし歯が進行することによって歯髄(歯の神経)が感染し、さらに歯根の尖端から歯周組織に炎症が移行することで骨吸収(歯の根っこの先で骨が溶ける病変)を生じたものです。

むし歯も歯周病も、原因は歯垢(プラーク:磨き残し)中の細菌である点で共通しており、骨吸収が進行すると抜歯せざるを得ないことも多いです。

したがって、むし歯や歯周病が進行する前に早期に治療することが重要です

また、むし歯と歯周病の予防は原因となる歯垢を除去することであり、日常のブラッシングや歯科での定期検診が大切でしょう

骨粗鬆症と歯周病の関係性については世界各国でこれまで多くの科学的根拠が報告されています。

わかりやすく言うと、「骨粗鬆症の患者様は歯周病のリスクが高い」けど、「骨粗鬆症の治療は歯周病の改善に有効」であることが報告されています。

歯周病は歯の支えとなっている骨が失われていくことで、歯の予後に大きな影響を及ぼす病気です。

「歯周病=骨の病気」とも表現されます。

骨粗鬆症も骨の病気ですから、深く関連があることは想像に容易いのではないでしょうか。

歯周病は”Silent disease(沈黙の病)”とも表され、自覚症状を感じることなく進行します。症状が出てきた頃には歯を残すことが難しくなっていることも珍しくありません。

骨粗鬆症の診断を受けた方や治療中の方は、早めに歯科医院を受診し、全身的な状況を含めて歯科医師と相談し、歯周病及び口腔の健康について対応をするようにしましょう。

骨粗鬆症と歯周病

骨粗鬆症の薬剤治療には、第一選択薬として骨吸収抑制薬であるビスホスホネートやデノスマブと言ったお薬が推奨されています。

最近、その副作用の一つとして「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(antiresorptive agents-related osteonecrosis of the
jaw: ARONJ)」が問題となっています。

顎骨壊死とは、「あごの骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が腐った状態になること」です。

典型的なARONJは、8週間以上持続する難治性の骨露出(歯ぐきから骨が見えていること)を特徴としますが、骨露出が明らかでない場合もあり、専門家による確定診断が必要です。

壊死が進行すると病的骨折(顎の骨が病気によって骨折すること)を起こす場合もあり、患者様のQOL(生活の質)を低下させるのみならず、骨粗鬆症治療そのものの妨げにもなります。

骨吸収抑制薬に関連する顎骨壊死

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(antiresorptive agents-related osteonecrosis of the jaw: ARONJ)

2011〜2013年のわが国の全国調査では、4、797例のARONJ患者が報告されました。

その前の2006〜2008年の全国調査では263例であり、調査方法やARONJの診断基準の変更などの条件の違いを考慮しても大幅に増加していることがわかります。

骨吸収抑制薬経口薬の投与患者が約200万人で、「4、797例のARONJの半数が骨吸収抑制薬経口薬投与」であることから、発症頻度は単純計算で「200万人中2、000例」、約0。1%程度と算出しています。

Shibahara T、  et al。 National Survey on Bisphosphonate-Related Osteonecrosis of the Jaws in Japan。 J
Oral Maxillofac Surg。
2018。

Urade M、 et al。 Nationwide survey for bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaws in Japan。 J Oral Maxillofac
Surg 2011。

高岡一樹、岸本裕充。 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の最新情報。 日本口腔インプラント学会誌 2017。

ARONJは複数のリスク因子が重複して発症しますが、重要なことは、骨吸収抑制薬投与中の患者における骨壊死の発症は、顎骨に特有に生じているという事実です。

つまり、顎骨は身体の他の部位の骨と比べると極めて感染しやすい環境下にあり、その環境がARONJ発症に深く関与していると考えられています。

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また、加齢もリスク因子の一つと考えられています。加齢が引き起こす骨の老化には酸化ストレスが関連しているとされていますが、私(ジョージ歯科口腔外科院長 玉岡丈二)が行った研究においても、顎骨の損傷と酸化ストレス誘発剤および骨吸収抑制薬投与の組み合わせによって顎骨壊死マウスモデルの作成に成功しています。

Tamaoka J、 et al。 Osteonecrosis of thejaws caused by bisphosphonate treatment and oxidative stress in mice。 Exp
Ther Med 2019。

https://www.spandidos-publications.com/10.3892/etm.2018.7076

これまでARONJ発症予防には、抜歯を「できるだけ避ける」あるいは「ARONJ発症の予防目的に骨吸収抑制薬を休薬(中止)」という対応がなされてきました。しかし、抜歯を行わなくてもARONJは多く発生しており、抜歯の手術侵襲よりも、抜歯の原因となった局所感染(歯周炎)による炎症の持続でARONJが発症したと思われる症例も多く経験するようになってきました。

抜歯を極端に避けることや、無理に休薬している期間に局所感染が持続・悪化し、ARONJに至る症例も存在します。歯性感染症(歯周炎など)に対して、抜歯を含めた歯科治療を適切に対応すればARONJを予防できる可能性もあり、抜歯が必要な状況であれば適切に抜歯することも必要なことがあります。骨吸収抑制薬を服薬中の患者様は、歯科医師と全身状態を踏まえて十分に治療方針を相談するようにしましょう。

顎骨壊死と抜歯の関係

今のところ「抜歯前に骨吸収抑制薬を休薬(中止)」することでARONJ発症を予防できる科学的根拠は乏しいと言えます。根本的に骨吸収抑制薬の休薬によって全身の骨折のリスクが高まりうることや、休薬を契機に患者様が骨吸収抑制薬を過剰に恐ろしい薬と思い込んでしまい薬剤の使用を拒否することがあることも考慮すべきでしょう。

メリット・デメリットを踏まえて総合的に考えると、一律に抜歯前に骨吸収抑制薬を休薬すべきではないと言えます。

玉岡丈二、高岡一樹、岸本裕充。口腔インプラント医が知っておくべき骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の知識。日本口腔インプラント学会誌。 2019。

 https://doi.org/10.11237/jsoi.32.20

理想的な対応としては、医科と歯科の密な連携によって骨吸収抑制薬治療「開始前」から歯科を受診することです。そして、必要に応じた検査を行い、歯周病や根尖性歯周炎に対し抜歯を含めた歯科治療を適切に行なって「感染リスクを減らすこと」がARONJ発症予防に最も有効です。

そのためには、適切な医学的知識を持った「信頼できる歯科医師・歯科衛生士」にサポートしてもらい、日頃から口腔内を適切に管理するようにしましょう。

すでに骨吸収抑制薬「開始後」でも、抜歯以外の一般的な歯科治療は通常通り行うことができます。

骨吸収抑制薬投与が期間長期に及んでいたり、ステロイド併用や他の全身的なリスクがある場合はARONJ発症リスクが高くなるので、かかりつけの歯科医師から専門医を紹介してもらうことも一案と言えます。

骨吸収抑制薬と歯科処置の実際

骨吸収抑制薬の有益性、顎骨壊死の発症率は必ずしも高くないこと、顎骨壊死の予防のためには日頃から良好な口腔状態を保つことが重要であることなど、メリット・デメリットを含め総合的に考慮することが重要と言えます。

そのためには、適切な医学的知識を持った「信頼できる歯科医師・歯科衛生士」にサポートしてもらい、日頃から口腔内を適切に管理するようにしましょう。

ジョージ歯科口腔外科では、全身的な医学的背景および予防的な長期視点に立った本質的な歯科口腔医療を提供致します。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

玉岡丈二 ジョージ歯科口腔外科 院長

歯科医師。医学博士。日本口腔インプラント学会専門医。日本口腔外科学会認定医。

「医学と歯学を繋ぐ」と「インプラント」を専門とし、兵庫医科大学にて医学博士号を取得。兵庫医科大学歯科口腔外科学講座助教を経て、専門医として口腔領域の多岐にわたる手術を担当。2023年ジョージ歯科口腔外科を開院し、「まっすぐに」向き合う医療を志す。

著書・論文に『「人生100年時代」 のインプラント治療の考えかた』『口腔インプラント医が知っておくべき骨吸収抑制薬の知識(日口腔インプラント誌2019)』等。